確率ロボティクス第1回(その1):
イントロダクション

千葉工業大学 上田 隆一


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確率ロボティクス第1回(その1)
  • 今回の内容
    • イントロダクション
    • 講義の進め方
確率ロボティクス第1回(その1)

イントロダクション

確率ロボティクス第1回(その1)

この講義

  • 「確率ロボティクス」
    • 確率・統計をロボットに導入して賢くしようという分野
    • ロボットが工場から人間の生活空間に入る上で必要となった
  • なんで確率・統計なのか?
    • 運動の面からの理由: 生活空間の複雑さに従来の制御が対応できない
    • 知能の面からの理由: 生活空間の複雑さをある意味「いい加減」に扱うために必要となる
確率ロボティクス第1回(その1)

運動の面からの理由: 制御と確率

  • いわゆる現代制御
    • 状態方程式、観測方程式に基づいて機械やプラントの状態推定や制御
      • 状態方程式:
        • 制御対象にという制御指令を出すと状態が状態に変化
        • ただし雑音で、だけがずれる
      • 観測(出力)方程式:
        • 時刻の状態がだと、が観測される
        • ただし雑音で、だけがずれる
    • 雑音は確率でモデル化されるので実は確率を扱っている
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状態方程式・観測方程式で扱われる確率

  • 雑音のばらつきの想定は、大抵の場合正規分布(ガウス分布)
    • ある大きさのばらつきを想定した上で安定で効率の良い制御方法を考える
  • このアイデアの限界
    • 雑音がもっと一般化すると、状態/観測方程式で扱いにくい
      • 「ロボットが段差に引っかかって90度向きがずれた(状態がワープ)」
      • 「人がセンサを遮った(ばらつきと呼ぶには大きすぎる誤差)」
⇒⇒⇒新しい道具(数式)が必要
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知能の面からの理由: 人間並の認識・判断能力をロボットに持たせたい

  • 突然ですが質問: なぜ事故が起きるかもしれない乗り物に乗るのか?
    • 飛行機、自動車、ジェットコースター
    • ロボットも人間並になると考えないといけない問題
  • 真面目な答え
    • ◯◯だから安全
    • ◯◯だから私は乗らない
    • 生活のため(じゃあジェットコースターは?)
  • 不真面目な答え
    • みんな乗ってるから
    • しらねー(はやくこのくだらない講義から開放してほしい)
    • うるせー(この講義終わったらどこに行こう?)
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もう1つ質問

  • 猫ってなんでみんなそう呼んでるの?そもそも猫って何?
  • 真面目な答え
    • 猫という言葉は眠った子という言葉が・・・
    • 猫はネコ科の動物で・・・
  • 不真面目な答え
    • みんな猫って呼んでるから
    • 犬でもたぬきでも牛でも馬でもないから
  • 実は最近のコンピュータ/ロボットは不真面目方式
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従来、多くの研究者が考えていたこと

  • 「正しい情報をコンピュータに与え、それをロボットに搭載すれば正しく動くはず」
    • 正しい情報から理屈をこね回して正解の認識や動作ができるはず
      • キーワード: エキスパートシステム、
        述語論理、第五世代コンピュータ
  • いかにも頭よさそうだけどほんまか?
    • 「哺乳類で脚が4本で・・・」という理屈だけで
      猫が認識できる?
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不真面目な答えこそ知能の鍵

  • 理詰めで考えすぎると・・・
    • エネルギーや時間がかかる(無限にかかるかも)
    • 人とコミュニケーションが成立しなくなる
    • 「分からないけどとりあえず動いてみよう」ができない
  • 「みんな乗ってるから」
    • これができるから飛行機のことを仕組みから勉強しなくてもよい
    • 憲法が保証しているから勉強しなくても生きていける
  • 「猫は猫」
    • みんな犬と区別つけてるし、猫と呼ぶから猫
      • 他の国では別の呼び方だし、下手すると区別してないかも
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不真面目さを扱う良い道具: 確率・統計

  • 確率・統計: 原因は一旦横に置いて、出てきたデータの法則性を扱う数学
    • 飛行機の事故「率」: 仕組みが分からなくても統計はとれる
      • 新たに情報を得て、統計からの予測を修正するとき確率を使用
      • 結果から原因を考えることができる
    • 「みんなそれを猫と言っている」も統計
      • 人工ニューラルネットワークが学習してきたのはコレ

統計さえとれればロボットが物理学者である必要はないかもしれないし、現に物理学者でない我々は日常生活ができているし、仕事をしている

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最近の人工ニューラルネットワークの話題

  • Transformer[Vaswani2017]による翻訳や
    GPT(Generative Pre-trained Transformer)[Radford2018]
    • 冒頭/文の途中で、次に出力するのがふさわしい単語を選んで出力
      • 「ふさわしい単語」: 人からの質問、翻訳前の文、自身の出力したこれまでの文を考慮して、各単語が次にくる確率が最も高い単語
  • 拡散モデル(Stable Diffusion[Rombach2021]など)
    • ある確率分布にしたがう雑音がのった画像から雑音除去する方法を学習
      ノイズだけの画像を勝手に解釈して画像を生成
単に統計的な法則を学習するだけでなく、確率的な構造・問題設定により進化
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つまり(イントロダクションのまとめ)

  • 運動・知能双方で確率・統計の考え方が大変重要になってきており、
    今後もしばらくそうではないか
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講義の進め方

確率ロボティクス第1回(その1)

講義で使う教科書

  • 上田: 「ロボットの確率・統計」, コロナ社, 2024.
    • 2024年度以前の「詳解確率ロボティクス」から変更
  • 理由
    • 本を買ってほしい
    • Probabilistic ROBOTICSの出版から20年を経て
      ロボティクスがより発展
      • 当初の範囲を超えて確率・統計が使われる
    • 確率・統計を基礎から講義したい
      • 一般向けの講義と要点が異なる
      • 「詳解確率ロボティクスが難しい」との声
        • 基礎をつければ独学できるように書いてある
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講義の進め方

  • 各回で何をするか
  • 点数のつけかた
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各回の内容(その1/2)

  • 第1回(今回): イントロダクション/代表値
  • 第2回: 確率と信頼性工学
  • 第3回: 期待値とギャンブル
  • 第4回: 連続値と多変量
  • 第5回: ベイズの定理と実験結果の解釈
  • 第6回: 動く確率分布とロボット
  • 第7回: 動く物体の位置推定
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各回の内容(その2/2)

  • 第8回: センサを使った推定とベイズフィルタ
  • 第9回: ベイズの定理を使った機械学習と変分推論
  • 第10回: 変分推論の続きと教師あり学習の概要
  • 第11回: 意思決定と確率・統計
  • 第12回: 制御、強化学習についてのベルマン方程式に基づく統一的な理解
  • 第13回: まとめ
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点数について

  • テスト: 60点
  • 課題: 40点
    • 締め切りは年末あたりにしていますが、応相談
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参考資料

確率ロボティクス第1回(その1)